私の趣味の一つに探鳥というものがありまして、若い頃は週末の度に山の中を歩き回っておりました。
登山道を外れて鳥を追ったり、ろくな装備も無く崖を登ったりと、今思うと無茶な行動をよくやっていました。
そんな事をやっていると当然危ない目に逢う事もありまして、オオスズメバチの巣に踏み込んでしまったり、遭難しかけたりと、かなり酷い目にも逢ってます。
そんな数々の酷い出来事の中で、一番死ぬかもしれないと思った瞬間はクマと遭遇した時です。
遭遇した場所は長野の山の中で、戸隠の辺りです。
2006年10月29日。
ムギマキという鳥を探して、山の中をウロウロしておりました。
時刻は15時過ぎ、西側に山があったので既に薄暗くなっておりました。
始めの異変は大きな鼻息でした。
大型犬のような荒い鼻息が聞こえてきたので、こんなとこに大型犬連れ込んでるバカがいるのかよと、イラっとしたのを覚えています。
そして鼻息が聞こえる右側の斜面へ目を向けた直後、笹薮をかき分けて黒い大きな塊が転がり落ちてきました。
最初に思ったのは、「デカっ!あ、クマだ。ぶつかる!?死ぬかも。」です。
クマは目の前2mほどの位置で止まりました。
ちょっと踏み出せば手の届く距離です。
恐怖心はあまりなく、とにかく驚いて固まってしまいました。
(横にデカっ!黒っ!・・・逃げたらダメなんだよな。)
薄暗かった事もあって、とにかく真っ黒い塊に見えました。
こんな感じに見えました。
すると、クマが顔を上げました。
この時思ったのが、
(顔ちっちゃ!あと黒っ!首、白っ!)
です。
クマというとヒグマの印象から、顔はふっくら丸みがあるイメージだったのですが、間近で見たツキノワグマは体に比べて細く小さな顔をしていました。
そして、真っ黒で顔を上げても目がどこにあるのか分かりませんでした。
とにかく黒くてデカい塊です。
首元の三日月模様だけが、白く不気味に浮かび上がっていました。
クマも驚いたようでそのまま固まってしまい、お互い動かない時間が続きました。
実際の時間は10秒くらいだったかもしれませんし、1分くらいだったのかもしれません。
自分の心臓の音だけがバクバク聞こえて、本当に時間の感覚が分からなくなるのです。
クマは突然、左側の笹薮の中へ飛び込んで逃げていきました。
ガサガサとなる笹薮を見送っていると、突然ものすごい高揚感が襲ってきました。
恐怖心などまったく無く、とにかくハイになってニヤニヤが止まらなくなったのです。
傍から見たら相当気持ち悪い奴だったと思います。
これが一切誇張無しのクマに遭遇した時の話です。
襲われなかったのは、まったく動けずに仁王立ちしていたのが功を奏したのだと思います。
しかし、ケガすらしなかったのは本当に幸運だっただけで、あの時クマが攻撃に転じていたら今は五体満足ではいられなかったと思います。
ちなみにその時撮ったムギマキの写真がこちらです。
命をかけて撮るようなものではないですね。
そんな経験をしても毎年長野の山に通ってしまうのですから、よほどこの鳥が好きなんだなと自分でも呆れます。
皆様も、クマには重々ご注意ください。