植物を種から育てる事を実生と呼びます。
多肉植物を育てる時には肥料分をあまり必要としない為、実生をする際にも肥料は無くても大丈夫と思われるかもしれません。
多肉植物の実生に、肥料は必要無いのでしょうか。
結論から言ってしまうと、種が発芽するのに肥料分は必要ありません。
種の発芽に必要な物は、[水・空気・適当な温度]です。
しかし、発芽後に成長する為には肥料分は絶対に必要になります。
発芽後の成長に必要なのは、[水・空気・適当な温度]に加えて[日光・肥料分]です。
実はこれ、誰でも知っている常識のはずなんです。
なにせ小学校5年生の理科で習いますから。
多肉植物も植物ですから、もちろん例外ではありません。
発芽後に肥料が必要な理由が「そう習ったから」では納得いかないと思うので、肥料分が必要な理由を詳しく解説してみます。
植物が大きくなるということは、細胞を増やすという事です。
植物の細胞には動物の細胞にはない大きな特徴があります。
そう、緑の粒々、葉緑体ですね。
光合成をするための重要な器官です。
植物が大きくなるには、この葉緑体を増やす必要があります。
葉緑体を構成する主要素である葉緑素(クロロフィル)は、化学式で書くと C55H72O5N4Mg となります。
一部省略してざっくり図にすると・・・
こんな感じです。
中核を担っているのがMg(マグネシウム)とN(窒素)である事が分かります。
そう、肥料に詳しい方にはお馴染みのNとMgです。
NとMgは元素ですので、細胞のように分裂して増えることはありません。
つまり、葉緑素を増やすにはNとMgを外部から取り込むしか無いのです。
Mgはいわゆるミネラル分で、水道水にも微量に含まれていますので、水から吸収する事ができます。
問題はNです。
大気の8割は窒素(N)ですから、空気中に大量にあるじゃないかと思われるかもしれません。
しかし、空気中の窒素分子はガチガチに安定しているので、利用する事が出来ません。
このド安定の空気中のNを植物が利用できる形にしたものが化学肥料です。
化学肥料を作る手法は、ノーベル賞も受賞している世紀の大発明ですので、興味のある方は、「ハーバー・ボッシュ法」で調べてみてください。
さて、話を多肉植物の実生に戻します。
発芽した小さな芽は、大きくなる為にどんどん細胞を増やします。
種に蓄えられた養分を使ってしまうと、その後は外部から窒素を取り込むしかありません。
ここで必ず肥料分が必要になるわけです。
肥料分は、代謝するためのエネルギー源ではなく、体を作る為の材料なんですね。
これを頭に入れておくと、植物を育てる上での肥料の必要な時期、必要量をある程度把握する事ができます。
肥料分は継続的に与えるものではなく、成長する時期に成長する分だけ与えればいいのです。
コンパクトで大きくならない多肉植物には肥料は必要無いと言われるのも、この理屈で考えれば納得できると思います。
1つ注意が必要なのは、小さな芽が育つのに必要な肥料分は極少量で済むということです。
必要以上に多く与えてしまうと、逆に成長を妨げる結果となります。
Nを吸収してクロロフィルを増やすのは実生苗だけではありません。
シアノバクテリア(藻)や、コケもその一つです。
必要以上に肥料をやってしまうと、藻やコケが大繁殖してしまい、芽が成長するのに必要なNを全て奪ってしまう事になりかねません。
こちらは部分的に粒状の肥料を与えた実生苗の様子です。
肥料を与えた所だけ藻が繁殖しているのがわかります。
また、肥料分が無い場所(藻が生えていない場所)は芽が小さいままで、成長していない事もわかります。
サボテンのように葉を展開せず、クロロフィルをあまり増やさない植物に多くの窒素肥料を与えてしまうと、不必要に伸びてしまう結果にもなります。
いわゆる徒長というやつですね。
肥料を与える際には、それぞれの植物に合った適量を見極め、過不足なく与える事が上手に植物を育てるコツだと思います。